Topics
グループガバナンス
と事業ポートフォリオ
マネジメント
経済産業省は2019年6月28日に、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」を公表している。コーポレートガバナンスの改革は、上場会社における社外取締役の導入等を中心に進展し、「形式から実質へ」の深化が求められているが、従来のガバナンスの議論は、法人単位が基本であったのに対し、実際の経営はグループ単位で行われているため、グループ経営における実効的なガバナンスの在り方が日本企業の課題である事から、当該指針が策定されている。
当該指針は、コーポレートガバナンス・コードの趣旨を敷衍し、グループガバナンスの在り方をコードと整合性を保ちつつ示すことで、コードを補完するものであり、グループ設計の在り方、事業ポートフォリオマネジメントの在り方、内部統制システムの在り方、子会社経営陣の指名・報酬の在り方が示されている。
そして、当該指針で示されている事業ポートフォリオマネジメントの在り方の内容を踏まえつつ、経済産業省は2020年1月から「事業再編研究会」を開催、「事業再編実務指針~事業ポートフォリオと組織の変革に向けて~(案)」を策定し、事業ポートフォリオの新陳代謝、特にスピンオフや事業売却等によるノンコア事業の切出しが進みにくい背景・要因を明らかにし、経営陣、取締役会、投資家の3つのレイヤーを通じて、コーポレートガバナンスを有効に機能させるための具体的な方策を整理するとともに、事業の切り出しを円滑に実行するための実務上の工夫について、ベストプラクティスとして示されている。
ここでは、事業ポートフォリオマネジメントの中でも、財務情報の整備にフォーカスして触れてみる。
グループ設計
多角化(事業分野の拡大)やグローバル化(地理的範囲の拡大)が進み、事業ポートフォリオが複雑になると、中央集権的な組織形態から分権的な組織形態へ移行し、分権化の程度に応じて、事業部制、社内カンパニー、分社化(完全子会社化)が採用される。
グループ設計の基本軸は、生産・販売・開発などの「機能軸」、A事業部・B事業部などの「事業軸」、北米・欧州・アジアなどの「地域軸」の3つの軸から構成されており、専業型や多角化型によって重視する軸が異なってくる。
事業切り出しの意義
新型コロナウィルスによる経営環境を受けて、リスク分散のための多角化の意義を見直す意見もあるが、一方で、貴重な経営資源をコア事業の強化や将来の成長事業への投資に集中させる事が結果的にキャッシュの創出力の強化に繋がることを認識すべきである。
その手段として、スピンオフによる分離・独立や他社への事業売却による切り出し(カーブアウト)が重要となる。切り出す側にとっては、コングロマリットディスカウントの解消や経営のフォーカスが強化される一方で、切り出しの対象となる側にとっても、独立による従業員のモチベーション向上やベストオーナーによって成長投資が得られやすくなる、といったメリットがある。
事業ポートフォリオマネジメントの評価指標例
各事業を評価する指標は項目別に下記に分類されるが、多くの企業では、損益計算書(PL)のみが事業セグメント別に管理されており、事業セグメント別の貸借対照表(BS)及びキャッシュフロー計算書(CS)が整備されていないため、実際に企業が重視している評価指標は、売上高、営業利益、営業利益率、損益、となっている。
各事業の評価指標が売上や損益となっているため、損益計算書が黒字であれば事業の切り出しがしにくいディスインセンティブとなっており、ROICが資本コストを下回った段階で売却する決断がなされていない。ここで、事業セグメント別の貸借対照表の整備は煩雑で断念している場合、まずはROIC算出のために必要となる貸借対照表の借方である資産から作成する事も検討する。
事業ポートフォリオマネジメントを適切に行うためには、事業ごとの収益性と成長性を把握し、資本コストを踏まえながら評価していく必要がある。なお、資本コストやROICなどの指標については、別稿「コーポレートガバナンスと資本コスト」も参照されたい。
項目 | 概要 | 備考 | |
---|---|---|---|
収益性 | ROE | 当期純利益÷株主資本 | |
ROA | 当期純利益÷総資産 | 資本構成の影響排除 | |
ROIC | 税引後営業利益(NOPAT)÷投下資本 | ||
成長性 | 売上高成長率 | (当期売上高-前期売上高)÷前期売上高 | 過去実績や他社との比較が有効 |
営業利益成長率 | (当期営業利益-前期営業利益)÷前期営業利益 | ||
効率性 | CCC | 売上債権回転期間+棚卸資産回転期間‐仕入債務回転期間 | 短いと効率性が高い |
資産回転率 | 売上高÷総資産 | 高いと効率性が高い |
事業別の財務情報の整備
事業別の損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書にかかる前提条件の整理、カーブアウト財務情報の作成支援はご相談ください。