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中期経営計画策定の
プロセスとポイント

- 飲食店舗における
計数化のポイント -

計数化における主要なポイント

 「中期経営計画」とは、企業が中期的に目指す将来像とその戦略であり、3~5年程度の中期を指すことが多い。中期経営計画は、過去実績の振り返り、将来計画、数値目標などから構成される。

 中期経営計画を作成する局面は、平時、M&A、IPO、資金調達など様々な局面において行われるが、中期経営計画よって示された数値目標が実績と大きく乖離が生じた場合にステークホルダーの利得に影響する可能性がある。

 本稿では、中期経営計画の一般的なプロセスに簡単に触れながら、特に事業計画の計数化に着目して、計数化のポイントを紹介する。また、飲食店舗ビジネスを例に具体的な策定ポイントなども紹介する。

事業計画策定のプロセスとポイント

 事業計画策定のプロセスは、事業計画の策定ポイントに留意しながら、「環境分析」からはじまり、課題に対する施策を織り込み、最終的に「計数化」される。計画策定の各プロセスにおいて、特にポイントなる点は以下の通り、戦略・施策の合理性、計数計画の蓋然性、計画書の明瞭性が挙げられる。

戦略・施策の合理性:「外部環境」を踏まえ、成長するための合理的な戦略・施策の計画
計数計画の蓋然性 :「内部環境」を踏まえ、蓋然性の高い客観的な成行計画と具体的施策による計数計画
計画書の明瞭性  :構成・細目が構造化され、明瞭に作成された計画書

環境分析 戦略・施策策定 計数化
外部環境
分析
内部管環境
分析
現状と課題
の整理
戦略の策定 施策の策定 売上・コスト・
設備投資計画の
具体化
三表の
計数化

 外部環境分析および内部環境分析について、具体的な分析項目は、別稿「ビジネスデューデリジェンスと企業価値評価の連携」も参照されたい。

事業計画計数化のポイント

 事業計画計数化のポイントは、全般的な前提条件のもと、売上、原価、経費、運転資本、設備投資などのキャッシュフローなどの項目から構成される。

項目 ポイント
基礎的事項 ① 事業計画の作成時点
② 本部または拠点レベルでの作成
③ 財務部門またはオペレーション部門が作成担当
④ 経営陣の戦略
計画の概観 ① 過去実績との連続性・一貫性
② 連結または単体、グループ間取引
③ BS、PL、CFの3表連動モデル
④ 過去の計画の正確性(予実差異)
⑤ 売上成長型またはコスト削減型の計画
⑥ ストレッチ、強気など
⑦ カーブアウト、グループ内再編(持株会社化など)などのM&A・再編局面
⑧ IPO局面
ビジネスの特性 ① 季節性
② 特定取引先への過度な依存
③ 新製品上市の信頼性
④ 売上に先立って必要となる先行コスト
⑤ 事業計画の遂行能力と必要な経営資源
売上高 ① 売上高成長のドライバー(単価UP、数量UP、新製品、新市場)
② 売上成長率(市場環境、過去実績、受注残、競争環境)
直接費 ① 直接費のコストドライバー(セールスミックス、材料費、人件費)
② 直接費の予測(市場環境、過去実績、業務改善の効果発現時期)
間接費 ① ボリュームの大きい科目と変動費・固定費の区分
② コスト削減策
経常外損益 ① 重要な経常外収支(リストラコスト、取引コスト、買収or売却)
② 経常外収支の経常的な収支の有無
③ 経常外収支の発生タイミング
④ 経常外収支のPL、キャッシュフローインパクト
キャッシュフロー ① 運転資本の範囲
② 取引先条件
③ 必要最低現預金、資金繰りの改善策
④ 投資(設備、研究開発)
⑤ 海外送金規制
⑥ 資金調達(LBOスキーム)
⑦ 利息や配当
⑧ タックスプランニング

 上表に列挙した主要なポイントそれぞれ、事業計画策定に伴う実務上の代表的なポイントであるが、企業の局面、業種などに応じて、対象会社からのヒヤリング・資料を基に、オーダーメイドでカスタマイズして事業計画を策定していく必要がある。

 本稿では、飲食店舗ビジネスを例にして具体的なポイントを紹介する。

飲食店舗における事業計画計数化のポイント

 飲食店舗ビジネスにおける代表的な経営指標はFLR比率である。Fは「food(材料費)」、Lは「labor(人件費)」、Rは「rent(家賃)」の略称であり、コストの大半を占める事になるが、ここではFLRに限らず、飲食店舗の計画計数化におけるポイントを列挙する。

① 出店タイプ、エリア

 ロードサイド、繁華街、ビルイン(商業施設)、フードコート、既存店と近接地域、新規地域、海外出店など。

② 売上高

 客数、客単価、曜日(土日、祝祭日)、改装、開店フィーバー(開店ボーナス効果)、粗利ミックス、広告宣伝、消費税増税、カニバリゼーション、イベント(オリンピックなど)、季節性など、売上に影響する事象や施策など。

③ 売上原価

 食材の製造外注化、食材高騰、開店ボーナス効果による食材ロスの現象、調達先など。

④ 人件費

 最低賃金、労働時間、休暇、手当、昇給、昇格、時給改訂、離職率、新規採用、労働時間、賞与、法定福利費、退職金、福利厚生費、オープン前時給など。

⑤ 地代家賃

 自社保有、賃貸など。

⑥ 広告宣伝費

 TVCM、ラジオCM、TV番組、雑誌、HP、看板、ポスター、フライヤー、のぼり、感謝祭、季節など。

⑦ 水道光熱費、配送料

⑧ 本社共通費

 本社の役員報酬、間接人件費、採用費、教育費、システムランニングコスト、商品開発費、外部コンサル費用など。

⑨ 設備投資

 新規出店における工事費用(共通仮設、建築本体、塔屋看板、給排水衛生設備、電気設備、外構、浄化槽、換気設備、ガス、厨房設備など)、改装における費用、本社・工場における工場設備、ITシステム投資など。

(参考)IPO局面における事業計画の審査に関する確認事項(飲食店の場合)

 証券会社や東京証券取引所が上場審査において評価や審査対象とする事項を参考まに列挙する(出典:新規上場ガイドブック、東京証券取引所)。

ビジネスモデル

- 事業の特徴・同業他社との差別化要因(安定した食材仕入先の確保、厨房作業の効率化、店舗デザイン等、食材・調理方法、展開地域等)
- 今後の事業展開・成長戦略(展開地域の拡大、新業態店舗の展開開始等)

事業環境

- 市場規模・業界の状況(取扱食材の流通量等)
- 顧客数の動向

事業計画の合理性

- 販売単価の推移及び予測
- 店舗数の推移・今後の出店計画
- 食材・店舗スタッフの確保状況・採用計画
- 利益計画(売上原価や販売管理費計画等)

 なお、本稿における事業計画の策定項目は筆者の経験の中で一般的な手続きを列挙したものであり、策定項目の網羅性を保証するものではなく、また意見にわたる部分については、筆者の私見であることを最後に申し添える。

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