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経営統合における
事業集約スキーム

- JFEグループの場合 -

「合併ではない」NKKと川崎製鉄の経営統合

 JFEグループは、当時国内粗鋼生産量2位の旧NKK(日本鋼管)と3位の旧川崎製鉄が2001年12月基本合意書の締結、2002年5月経営統合契約書を締結し、2002年9月に持株会社であるJFEホールディングス設立によって誕生した日本の大手鉄鋼会社である。

 経営統合を促した背景は、鉄鋼会社にとってひも付きの得意先である自動車会社の日産自動車カルロス・ゴーンCEOによって素材調達先シェア見直しのいわゆるゴーン・ショックにより、また当時の日経平均株価はバブル崩壊後、2003年の最安値記録に向かって低迷し、いわゆる50円額面割れの会社が続出と言われていた時代に両社が危機意識を持って再編に踏み切ったものである(念のため、当時既に、平成13年10月1日に施行された商法改正により、額面株式は廃止されている)。

 経営統合の成功事例として有名な同社であるが、当該経営統合は会社法上の「合併」ではなく、「株式移転」および「会社分割」を利用したものであるが、本稿では、2001年12月基本合意、2002年5月経営統合契約書締結における対象会社に限定して、統合スキームについて改めて整理し、経営統合の方法の一つとして持株会社化を活用して事業を集約した事例を紹介する。

経営統合スキーム

JFE統合前 JFE統合前 JFE統合前

 上記の通り、2002年9月にNKKと川崎製鉄が株式移転による共同持株会社である「JFEホールディングス株式会社」を設立し、両社は持株会社傘下の完全子会社となる。次に両社は事業別子会社に再編成する事になる。当該再編スキームは、会社分割を活用し、鉄鋼事業は「JFEスチール株式会社」、エンジニアリング事業は「JFEエンジニアリング株式会社」、都市開発事業は「JFE都市開発株式会社」、半導体事業は「川崎マイクロエレクトロニクス株式会社」、R&Dは「JFE技研株式会社」、化学事業はJFEスチール子会社JFEケミカルに再編するものである。

 具体的には、NKKの鉄鋼事業部門を川崎製鉄が吸収分割しJFEスチールに商号変更、川崎製鉄のエンジニアリング事業部門をNKKが吸収分割しJFEエンジニアリングに商号変更、NKKおよび川崎製鉄の都市開発事業を新設会社であるJFE都市開発に新設分割、川崎製鉄の子会社である川崎マイクロエレクトロニクスをJFEホールディングスに吸収分割、NKKの基盤技術研究所を新設会社であるJFE技研に会社分割、川崎製鉄の化学事業をNKKの子会社であるアドケムコに吸収分割後、JFEスチール子会社JFEケミカルとなっている。

セグメント情報

 ここで、鉄鋼事業およびエンジニアリング事業の受皿会社を上記の通りとした背景について、セグメント別の従業員数・外部売上高・設備投資等の観点から考察する。2002年度JFEホールディングスの有価証券報告書における2002年4月から2003年3月までのNKKおよび川崎製鉄各社のセグメント別の従業員数・外部売上高・設備投資等(下記参照)を比較すると、鉄鋼事業は川崎製鉄が従業員数・設備投資等、NKKは売上高が高くなっているが概ね同様の水準となっている、一方で、エンジニアリング事業については、従業員数・売上高・設備投資等のいずれもNKKの方が3倍以上高くなっている事が分かる。両社の事業を集約する上で、エンジニアリング事業の規模が大きいNKKを受皿会社とする合理性が認められると言える。

 両社は、「合併」により包括的に事業を集約するのではなく、事業別子会社を設立するために、「株式移転」および「会社分割」を用いた持株会社化による事業集約スキームを採用したのである。なお、本稿の主題ではないが、JFEは持株会社の中でも、他社の支配のみを目的として事業運営をしない純粋持株会社として設立運営している。

事業の種類別セグメント(2003年3月末) 連結会社の従業員数(人)
NKK 川崎製鉄
鉄鋼事業 17,277 20,761
エンジニアリング事業 6,470 1,897
化学事業 - 996
LSI・情報通信事業 - 1,938
その他(全社共通含む) 1,906 2,139
合計 25,653 27,731
事業の種類別セグメント(2003年3月末) 連結会社の外部顧客に対する売上高(百万円)
NKK 川崎製鉄
鉄鋼事業 896,300 877,129
エンジニアリング事業 408,606 113,156
化学事業 - 44,991
LSI・情報通信事業 - 54,158
その他 26,707 26,301
合計 1,331,614 1,115,736
事業の種類別セグメント(2003年3月末) 連結会社の設備投資等(百万円)
NKK 川崎製鉄
鉄鋼事業 57,326 64,844
エンジニアリング事業 4,702 1,584
化学事業 - 2,794
LSI・情報通信事業 - 3,281
その他(消去または全社含む) 2,442 433
合計 64,472 72,937

 余談であるが、当時のJFE技研、スチール研究所、およびエンジニアリング研究所の再編については、別途議論があるが本稿の内容とはそれるため、別の機会にさせていただく。

 なお、本稿は各社ホームページ、有価証券報告書などの公開情報に基づくものであり、また文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを最後に申し添える。

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