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買手・売手のM&Aプロセスと成功のポイント
- 成立から成功へ導くためのタスクフロー -
高値掴みまたは安売りしない戦略的なアプローチ
買手のM&Aプロセスは、買収検討・買収交渉・買収後(出口含む)の3フェーズに区分される。買手にとって最も意識するポイントは、「成立(売買契約締結および対価決済)」と「成功(経営戦略としてM&Aを採用する目的達成)」の違いを認識し、シナジー効果・バリューアップ効果を生み出せる候補先選定、デューデリジェンス、高値掴みしない価値評価が重要となる。
売手のM&Aプロセスは、売却検討・準備・売却交渉・売却後(出口含む)の3フェーズに区分される。売手にとって最も意識するポイントは、買手に比較して、社内外の利害関係者にとって影響が大きいため、情報の取扱いなど留意して対応する必要がある点、また、事前にディールイシューを網羅的に洗い出し、対策を施した上で買手との交渉を有利に進めることが重要となる。
本稿では、買手・売手それぞれの立場において一般的なM&A実務のプロセスおよびポイントを述べたい。
買手M&Aプロセスと成功のポイント
買収検討 | 買収交渉 | 買収後 |
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戦略の策定 | 候補選定 / スクリーニング |
初期的DD実施 / 取引スキーム検討 | 基本合意締結交渉 | DD / バリュエーション |
取引条件提示 / 最終交渉 | クロージング準備 | 取引の実行 | PMI |
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■事業ビジョン・戦略の確認 ■M&Aオプションの抽出 ■M&A実行計画の立案 |
■スクリーニング計画の立案 ■ロング・ショートリストの作成 ■候補企業に関する初期的情報収集 ■候補企業の選定 |
■DD計画の立案 ■買収実施プロセスの構築 ■取引スキームの検討 ■シナジー効果の分析 ■バリュードライバーの分析 |
■売手候補企業へのアプローチ ■買収価格・取引条件等の交渉 ■基本合意書の作成・締結支援 |
■DDの調整・実施 ■取引スキーム策定 ■DD結果の価値評価への反映 ■対象会社・事業の価値算定 |
■買収価格・取引条件の検討 ■最終契約に向けた対象会社との最終交渉 ■最終契約書の作成・締結支援 |
■クロージングのための手続き ■クロージングまでのプロセス管理 ■クロージングDDの計画立案 |
■クロージングDDの管理 ■買収価格の調整 |
■買収後のインテグレーション(統合) ■出口戦略の立案・実行 |
① 買収検討フェーズ
戦略の策定では、成長戦略に向けた定量的目標の設定、目標達成のためのM&Aや資本業務提携などオプション抽出をおこなう。
候補選定/スクリーニングでは、候補企業を抽出したロングリストに成長戦略の目的に見合う定量的・定性的情報から絞り込みをおこないショートリストを作成する。
初期的DD実施/取引スキーム検討では、採用するオプションに伴い、スキームのpros/cons整理、シナジー効果・バリュードライバーの分析によって、企業価値の増分を定量化する。
② 買収交渉フェーズ
基本合意締結交渉では、基本的にはFAや仲介会社が対象企業にコンタクトし、候補先が交渉を希望した場合は、デューデリジェンス(DD)を行う前に独占交渉権付与などを目的に基本合意締結を行う。
DD/バリュエーションでは、企業価値評価に影響を与える定量的な要素をDDで定量化し、必要に応じて企業価値評価に織り込む。
取引条件提示/最終交渉から取引の実行までは、DDの発見事項の買収価格への反映、評価基準日とクロージングまでの価値変動要因を価格調整条項として反映、将来計画期間における財務目標の達成をアーンアウト条項として反映、売手の事業運営に必要なサービス継続に関するサービス提供契約の検討など、最終契約書へ織り込むかどうかの検討が重要なポイントとなる。
③ 買収後
シナジー・バリューアップ効果の定量化・施策の実施・トラッキングを行い、M&Aディール成立に終わらず、成功のためのチューニングを施すことが重要となる。
出口戦略は主としてフィナンシャルバイヤーである投資会社にとって重要な事前検討事項である。
売手M&Aプロセスと成功のポイント
売却検討・準備 | 売却交渉 | 売却後 |
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戦略の策定 | 売却対象の選定 | 交渉準備 | 基本合意締結交渉 | DDの受入 | 取引条件受領 / 最終交渉 |
クロージング準備 | 取引の実行 | 売却後の戦略策定 |
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■事業ビジョン・戦略の確認 ■M&Aオプションの抽出 ■M&A実行計画の立案 |
■売却対象事業/会社の選定 ■セルサイドDDの計画立案 ■売却実施プロセスの構築 |
■交渉資料(IM、シミュレーション等)の作成 ■カーブアウト財務情報・明細の作成・整備 ■売却対象事業計画の作成 ■対象会社・事業の価値評価シミュレーション |
■買手候補企業の選定 ■売却価格・取引条件等の交渉 ■基本合意書の作成・締結支援 |
■DD受入に関する調整 ■DDの管理・運営 |
■最終契約に向けた買手との最終交渉 ■売却価格・取引条件の検討 ■最終契約書の作成・締結支援 |
■クロージングのための手続き ■クロージングまでのスケジュール管理 |
■クロージングDDの受入 ■売買価格の調整 |
■売却後の残存事業に関する戦略策定 ■売却事業のフォロー |
① 売却検討・準備フェーズ
戦略の策定では、事業ポートフォリオを見直し、コア事業・ノンコア事業の選定、M&Aや清算などオプション抽出をおこなう。
売却対象事業/会社の選定は、子会社単体や自社株の売却局面ではなく、自社の事業の一部を切り出す(カーブアウト)場合において、当該事業に関連する売却対象を明確にする必要がある。
交渉準備では、買手候補に提示するインフォメーション・メモランダム(IM)やマネジメント・プレゼンテーション資料、必要に応じて、セルサイドDDレポートおよびカーブアウトFSを作成し、売却対象にかかる財務情報を整備する。さらに、交渉を有利に進める上で、合理的な根拠がある新規市場開拓による売上増加、コスト削減や構造改革などの施策を施した事業計画を整備する。当該事業計画をベースに自社の売却価値を事前にシミュレーションし交渉に備える。
② 売却交渉フェーズ
基本合意締結交渉では、複数の買手候補企業に対して、売却価格・雇用・企業文化・事業会社または投資会社・スタンドアロンイシューなどの定量的・定性的情報から絞り込みをおこないスクリーニングする。交渉は、独占交渉権を付与して相対方式でおこなう場合と複数の買手候補と交渉する入札方式がある。
DDの受け入れでは、買手候補からのDDに伴う各種インタビューやQAに対応する必要がある。DDを円滑に進めるためには、FA・仲介などのアドバイザーと連携してプロセスを管理・運営する。
取引条件提示/最終交渉から取引の実行までは、売却対象事業・会社の再整理、DDの発見事項の売却価格への反映、評価基準日とクロージングまでの価値変動要因を価格調整条項として反映、将来計画期間における財務目標の達成をアーンアウト条項として反映、売手の事業運営に必要なサービスの継続に関するサービス提供契約の検討など、最終契約書へ織り込むかどうかの検討が重要なポイントとなる。また、クロージングBSを作成し、クロージングDDに備え、価格調整条項の履行有無を検討する。
③ 売却後
売却資金をコア事業や新規事業に投入する成長戦略の明確化、当該目標達成のための施策実行や、売手の事業運営に必要なサービスの継続に関するサービス提供契約の履行などのフォローが必要となる。
参考文献
デロイトトーマツFAS株式会社. M&A統合型財務デューデリジェンス. 平成22年2月10日
なお、本稿におけるM&Aのプロセスおよびポイントは筆者の経験の中で一般的な手続きを整理したものであり、M&A実務の網羅性を保証するものではなく、また意見にわたる部分については、筆者の私見であることを最後に申し添える。