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コーポレートガバナンス
と独立役員

 平成26年改正会社法の施工(施行日は、2015年5月1日)の中で、社外取締役を設置していない場合、定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならないとされていましたが、会社法の一部を改正する法律が交付され(施工日は、2021年3月1日)、社外取締役の設置が義務化されました(会社法327条の2)。具体的には、公開会社、かつ、大会社であるもののうち、監査役会設置会社であり、有価証券報告書を提出しなければならない会社が対象となります。

 また、法制審議会の付帯決議を受けて、東京証券取引所は上場会社に対して、独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役)を1名以上確保することは上場会社の順守すべき事項であり(有価証券上場規程436条の2第1項)、取締役である独立役員を1名以上確保することは、上場会社の努力義務であるとしています(有価証券上場規程445条の4)。
 さらに、2015年3月東京証券取引所および金融庁が公表したコーポレートガバナンス・コード原案を受けて、2015年5月13日に、「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」を当該取引所の有価証券上場規程の別添として定めるとともに、関連する上場制度の整備を行いました。コーポレートガバナンス・コード及び改正後の有価証券上場規程等は、2015年6月1日から適用されます。なお、原案からのから変更は特にありません。コーポレートガバナンス・コードによると、適用対象となる上場会社(東京証券取引所市場第一部または市場第二部)に対して、独立社外取締役を少なくとも2名以上選任することを求めています(原則4-8)。

 金融庁は2018年3月13日に、「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」の改定案を公表し、東京証券取引所は2018年6月1日に、「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」の改定版を公表しています。主な改定案は、政策保有株式、企業年金、取締役会、経営戦略や経営計画などにかかるものとなっています。

 金融庁は2021年6月11日に、「コーポレートガバナンス・コードと 投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」の改定案を公表し、東京証券取引所は同日、「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」の改定版を公表しています。主な改定案は、取締役会の機能発揮、企業の中核人材における多様性の確保やサステナビリティを巡る課題への取組みなどにかかるものとなっています。
 独立社外取締役に関する本改訂において、原則4-8後段に「過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社(その他の市場の上場会社においては少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社)」について、十分な人数の独立社外取締役を選任する事が求められています。

 コーポレートガバナンス改訂の中で、社外取締役、社外監査役に求められる機能や期待については、例えば、下記のようなものが挙げられます。

社外取締役:

 経営者の事業計画策定、構造改革、事業参入・撤退、M&A、グループ内再編、新株の発行、剰余金の処分、役員報酬の決定、役員の選任、関連当事者の利益相反取引など、独立的な立場で、企業価値最大化、コンプライアンスそして経済合理性などの観点から、会社に対してモニタリングまたは助言をすることが求められます。
 特に組織再編等において、企業価値最大化の観点から、市場「価格」が明らかである資産を不当な価格で取得または売却する場合に善管注意義務違反になる可能性がある事と同様に企業「価値」においても市場価格と著しく乖離した価格での取得または売却は認められないと考えられます。取得については、対象会社または対象事業などの価値、売却においては、市場における自社または事業部門の価値、を評価するマーケットチェックは必須となります。

  経済産業省では、「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」を公表しているが、本指針では、会社法及びコーポレートガバナンス・コードの趣旨を踏まえつつ、社外取締役の役割や取組について実務的な視点から整理するものであり、社外取締役に期待される基本的役割を明確にした上で、そのような役割を果たすために役立つ具体的な取組についてベストプラクティスを示している。その中で、5つの心得を紹介しておく。

心得1
社外取締役の最も重要な役割は、経営の監督である。その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うことであり、必要な場合には、社長・CEO の交代を主導することも含まれる。

心得2
社外取締役は、社内のしがらみにとらわれない立場で、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考えることを心掛けるべきである。

心得3
社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛けるべきである。

心得4
社外取締役は、社長・CEO を含む経営陣と、適度な緊張感・距離感を保ちつつ、コミュニケーションを図り、信頼関係を築くことを心掛けるべきである。

心得5
会社と経営陣・支配株主等との利益相反を監督することは、社外取締役の重要な責務である。

社外監査役:

 社外取締役と同様に法令の順守、そして、内部統制システムの整備運用状況、その他役員の業務執行の状況を監査、会計監査人の独立性、その他会計監査の実効性について監査をすることが求められます。
 社内の監査役は内部のコーポレートガバナンスの担い手の一つであるものの、社内の人間が実質的に代表取締役に専任され実効性が疑問視される事から、独立的な立場である社外監査役による企業価値を高めるためのコーポレートガバナンスの担い手としての実効性が期待されます。

  日本公認会計士協議会(社外役員会計士協議会)では、公認会計士たる社外監査役等が留意すべき事項等をとりまとめた「公認会計士社外監査役等の手引」を公表している。

(関連トピック)

 コーポレートガバナンスコード原則五-二(経営戦略や経営計画の策定・公表)の中で、資本コストを的確に把握する事を求めているが、当該資本コストについては、別稿「コーポレートガバナンスと資本コスト」も参照されたい。
 コーポレートガバナンスコード補充原則四-二①の中で、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定する事を求めているが、当該報酬制度については、別稿「コーポレートガバナンスと報酬制度」も参照されたい。

参考文献
東京証券取引所. コーポレートガバナンス・コード. 平成27年6月1日
東京証券取引所. コーポレートガバナンス・コード原案. 平成27年3月5日
経済産業省. コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会. 社外役員等に関するガイドライン. 平成26年6月30日
経済産業省. コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会. 社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン). 令和2年7月31日
日本公認会計士協会. 会社法改正-社外取締役・社外監査役に影響を及ぼす改正を中心として- 弥永真生:会計・監査ジャーナル. 平成27年4月1日
日本公認会計士協会. 公認会計士社外監査役等の手引. 令和2年7月6日
日本弁護士連合会. 社外取締役ガイドライン. 平成27年3月19日
日本弁護士連合会 司法制度調査会. 「社外取締役ガイドライン」の解説:商事法務. 平成25年9月20日
日本公認会計士協会・日本税理士会連合会. 会計参与の行動指針. 平成26年3月24日
日本税理士会連合会. 会計参与制度の手引き. 平成18年6月

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