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買収ファイナンスLBOの概観

- ストラクチャーやモデリングにおける留意点 -

買収ファイナンスとしてのLBO活用

 M&Aは、様々なスキーム(トピック「M&A・組織再編スキームのpros/cons」参照)を活用して実行されるが、対価の観点から、現金を対価としたスキーム、株式等を対価としたスキーム、無対価のスキームに大きく区分される。現金を対価としたスキームにおいて、資金源泉は自社内部または外部からの資金調達に区分され、M&Aのための資金調達を買収ファイナンス(acquisition finance)という。

 外部調達は、借入、社債発行、株式発行、資産流動化などが挙げられるが、買手(スポンサー)の出資(エクィティ)を抑え、買収対象会社の資産およびキャッシュフローを担保に金融機関から借入を行う手法として、LBO(Leveraged Buyout)が活用されている。

LBOストラクチャー

 LBOの基本的なストラクチャーは、一般的に以下のフローで行われる。

① 買手(スポンサー)がSPC(Special Purpose Company:特別目的会社)を設立
② 買手から株式による出資(エクィティ)および金融機関等から新規借入(シニアローン)によって資金を調達
③ 当該資金をもとに対象会社の株式を取得
④ SPC(消滅会社)と対象会社(存続会社)で吸収合併
⑤ 対象会社の既存借入を返済(リファイナンス)
⑥ 合併した存続会社の事業によるキャッシュフローをもとに新規借入を返済

 ストラクチャーは、②においてメザニン(劣後ローン、優先株式など)を活用する場合、③において株式譲渡ではなく事業譲渡を採用する場合、④において100%子会社を前提として対象会社に保証は求めるものの合併しない場合、など多岐に亘る。

 なお、買収ファイナンスは合併如何に関わらず、子会社等を含んだクレジットパーティー(連結ベース)で検討する。

 LBOの主な特徴として、SPCの株主である買手(スポンサー)から保証・担保提供が供与されることは基本的になく、返済原資は対象会社の生み出すキャッシュフローによりなされる(ノンリコースローン)。また、借入を中心としてレバレッジをきかせる一方で対象会社(またはSPC)の負債比率が高くなる(デットエクィティレシオ:50~80%が一般的)。さらに、資金力のない経営者による対象会社の買収手法であるMBO(Management Buyout)において一般的に利用される手法である。

LBOストラクチャーの構成要素

 資金使途および資金調達(Uses & Sources)は以下要素で構成される。なお当該構成要素は主要なものを掲載している。

資金使途および資金調達(Uses & Sources)

   資金使途(Uses)
   資金調達(Sources)
・株式取得
・取得関連費用
・既存借入金返済
・アップフロントフィー
・オープニングキャッシュ
・登録免許税
・リボルバー
・シニアローン(タームローンA、タームローンB)
・メザニン(優先株式、劣後ローン、劣後債)
・エクィティ
・手元現預金

資金調達

 ローン、メザニン、エクィティなどから構成され、特にローンについてはタームローン、コミットメントライン(リボルバー)など、複数のファシリティが設けられる事が一般的であり、またハイリスクである事からコーポレートローンに比べて金利が高く設定される事が通常である。タームローンは担保付の長期借入が一般的であり、返済方法により二つのトランシェにトランチング(tranching)される。

リボルバー 運転資金
利息は日本円TIBORにスプレッド加算
タームローンA 5~7年の約定返済(分割返済)、Amortization
日本円TIBORにスプレッド加算
タームローンB 5~7年の満期一括返済、Bullet
日本円TIBORにスプレッド加算
メザニン シニアローンとエクィティの中間(中2階)として、エクイティとしての優先株式の引き受け、デットとしての劣後ローンの借入または劣後債の引き受け
シニアローンより利息が高く、6~8年の満期一括返済
エクィティ 買手(スポンサー)の株式引受
手許現預金 直近に対象会社が保有している現預金

資金使途

 調達した資金は、株式取得資金、既存借入金の返済資金、運転資金、その他関連費用に使用される。

株式取得 対象会社の株式時価(トピック「財務デューデリジェンスと企業価値評価の連携」参照)
取得関連費用 外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等
単体上は取得価額、連結上は発生した事業年度の費用
既存借入金返済 既存の借入は全額返済されるとともに新規のローンに借り換え(リファイナンス)
アップフロントフィー タームローン貸付実行日に一括支払い、例:1~3%
オープニングキャッシュ SPCと対象会社が吸収合併後の計画初年度の期首現預金残高
登録免許税 株式会社の場合、課税標準を資本金の額とし、1,000分の7(15万円に満たないときは、申請件数1件につき15万円)

利息、フィー

 資金調達に伴い、金融機関に支払うコストは以下のようなものが挙げられる。

ローンの利息 借入期間に亘って支払う利息
日本円TIBORにスプレッド加算
コミットメントフィー 極度額から貸付実行額を控除した残額に料率を乗じて計算、例えば6か月ごとに後払い
アレンジメントフィー シンジゲートローンをアレンジャーが組成する場合、①ストラクチャーの提案、②マーケット需要の調査、③契約条件のとりまとめ、④契約書の作成、⑤招聘・金融機関との交渉、バンクミーティング、⑦調印式等のアレンジなど、タームローン貸付実行日に一括支払い、アップフロントフィーも含む
エージェントフィー 貸付実行後にエージェントが設置される場合、①貸付・元利金・手数料等の資金決済業務、②借入人及び貸付人への通知、③財務制限条項など契約内容のモニタリング、④貸付人の意思終結、⑤債権または地位の譲渡に関連する事務手続きなど、前払いにより定期的に支払

財務モデリング

 会計面・税務面の観点から、日本の会計基準・税法等を前提として、LBOモデル作成における主要な留意点に触れる。

① のれん

【会計】原則として資産計上、20年以内の効果の及ぶ期間にわたって償却(販売費及び一般管理費)、負ののれんが生じた場合は発生した事業年度の利益(特別利益)に計上

【税務】株式譲渡および吸収合併スキームの場合、株式譲渡においては税務上ののれん(資産調整勘定または差額負債調整勘定)は認識されず、その後の吸収合併においても完全支配関係の合併は税制適格要件を充足することから同様に税務上ののれんは認識されない。しかし、事業譲渡スキームを採用した場合、交付した金銭等の価額と移転資産負債の時価純資産額の差額は資産調整勘定または差額負債調整勘定として認識され、5年間にわたって損金または益金に算入される。

② 取得関連費用

【会計】外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等は、単体上、子会社株式に係る付随費用として子会社株式の取得原価に含めるが(金融商品会計)、連結上、発生した連結会計年度の費用として処理する(企業結合会計)。

【税務】株式の取得に係る付随費用として株式の取得価額に算入される。

③ フィー

【会計】アレンジメントフィーは役務提供があった事業年度に費用処理、エージェントフィーは借入期間に応じて費用処理(前払費用処理)する。

【税務】アレンジメントフィーは、事業年度の損金の額に算入、エージェントフィーは、借入期間に応じて損金算入となるため、一時金として支払われた翌事業年度以降の借入期間に対応する部分の金額は損金の額には算入しない。

コベナンツ(誓約事項)

 コベナンツは借入人及び保証人の義務で多岐に亘るが、特に財務コベナンツ(財務制限条項)については、特定の基準日における財務パフォーマンスを設定し、下記のような財務指標から選択される。そのため、財務モデリングにおいて当該指標をアウトプットとして検討する事が通常である。

 インタレスト・カバレッジレシオ(ICR) = フリーキャッシュフロー / 支払利息

 デットサービス・カバレッジレシオ(DSCR) = フリーキャッシュフロー / 有利子負債
                               返済額(利息支払い含む)

 レバレッジレシオ = 有利子負債残高 / EBITDA

 レバレッジレシオ(ネット) = ネットデット / EBITDA

LBOモデル(入出力例)

 LBOモデルの入力と出力のイメージを例示する(財務3表モデルは省略)。

インプット

株式価値 xxx 取得関連費用 xxx
ネットデット xxx 財務・税務DD xxx
有利子負債 xxx 法務DD xxx
デットライクアイテム xxx ビジネスDD xxx
現預金 xxx FA xxx
非事業用資産 xxx フィー xxx
事業価値 xxx アップフロントフィー xxx
簿価純資産 xxx
のれん xxx
資金使途 資金調達
株式価値 xxx リボルバー xxx
既存借入金 xxx タームローンA xxx
取得関連費用 xxx タームローンB xxx
アップフロントフィー xxx 株式 xxx
オープニングキャッシュ xxx 既存現預金 xxx
資本構成 金額 期間 スプレッド アップフロントフィー
リボルバー xxx - xx% xx%
タームローンA xxx 5年 xx% xx%
タームローンB xxx - xx% xx%
株式 xxx - - -
負債返済スケジュール FY1 FY2 FY3 FY4 FY5
タームローンA xxx xxx xxx xxx xxx
タームローンB - - - - xxx
負債利率
(TIBOR+スプレッド)
FY1 FY2 FY3 FY4 FY5
リボルバー xx% xx% xx% xx% xx%
タームローンA xx% xx% xx% xx% xx%
タームローンB xx% xx% xx% xx% xx%

アウトプット

財務指標 FY1 FY2 FY3 FY4 FY5
FCF xxx xxx xxx xxx xxx
EBITDA xxx xxx xxx xxx xxx
デッドサービス xxx xxx xxx xxx xxx
支払利息 xxx xxx xxx xxx xxx
現預金 xxx xxx xxx xxx xxx
有利子負債 xxx xxx xxx xxx xxx
ネットデット xxx xxx xxx xxx xxx
インタレスト
・カバレッジレシオ
x x x x x
デットサービス
・カバレッジレシオ
x x x x x
レバレッジレシオ x x x x x
レバレッジレシオ(ネット) x x x x x
D/Eレシオ x x x x x

 なお、本稿におけるLBO概観は筆者の経験の中で一般的な手続きを整理したものであり、LBO実務の網羅性を保証するものではなく、また意見にわたる部分については、筆者の私見であることを最後に申し添える。

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