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Valuation Method

種類株式価値評価手法

M&Aなどの取引、資金調達、会計目的などに用いる、一般的な種類株式価値評価手法について解説いたします。

種類株式価値評価の理論

会社法2条13号に種類株式発行会社が定義されており、会社法108条1項に発行可能な種類株式の内容が規定されている。種類株式はその付帯される権利の性質に応じて、種類株式ではない株式(普通株式とする)の評価手法とは異なる手法により評価が行われる事がある。

なお、当社のWebフリーシミュレーション(無料で種類株式価値評価のシミュレーション)は、種類株式の中でも取得請求権付株式を対象に二項モデル(Binomial Model)を採用している(評価シミュレーションはコチラへ)。

異なる種類の株式(会社法108条1項)

1号 剰余金の配当についての種類株式
剰余金の配当について、優先又は劣後する株式
2号 残余財産の分配についての種類株式
残余財産の分配について、優先又は劣後する株式
3号 議決権制限株式
株主総会において議決権を行使することができる事項を定める株式
4号 譲渡制限株式
譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要する株式
5号 取得請求権付株式
「株主」が当該株式会社に対してその取得を請求することが出来る株式
6号 取得条項付株式
「発行会社」が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することが出来る株式
7号 全部取得条項付種類株式
株主総会の特別決議によってその全部を取得することが出来る株式
8号 拒否権付種類株式
株主総会又は取締役会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするものについての株式
9号 選任権付種類株式
取締役又は監査役の選任についての株式

種類株式の活用局面

以下局面においてリスク軽減のために、特殊な条件を付した株式を利用する事が多い。

・PEプライベートエクィティファンドなどが再生局面の企業に投資する局面
(例:転換権付配当優先株式)
・VCベンチャーキャピタルなどがベンチャー企業に投資する局面
(例:無議決権配当優先株式、みなし清算条項付種類株式)
・M&Aや組織再編、100%子会社化において、少数株主を排除する局面
(例:全部取得条項付種類株式)
・敵対的買収に対する防衛策として導入する局面
(例:拒否権条項付株式)
・相続に先立って後継者に事業承継する局面
(例:拒否権条項付株式)
 など

実際の発行事例では、取得請求権及び取得条項付株式が多いとされる。 なお株主間契約、投資契約、あるいはベンチャー企業が一定期間内に上場しなかった場合には株式を買い取る条件を付したりすることもある。

種類株式の時価評価

種類株式は上場されていない事が通常であるため、債権と同様の性格を有する種類株式を除き、DCF法(「株式価値評価手法」参照)やオプション価格モデル(「ストックオプション価値評価手法」参照)など将来キャッシュフローを利用した評価モデルが採用される事が実務である。

① オプションが付された株式

普通株式への転換請求権などのオプションが付与されている場合、オプションの価値を織り込むことになるが、二項モデル・三項モデルなどの行使モデル、ブラックショールズモデル、モンテカルロシミュレーションなどの手法を用いる。

取得請求権付株式は、株主にとってプットオプション付株式であり、取得条項付株式は、株主にとってコールオプションの売りと同様の効果を有する。オプション評価の詳細は「ストックオプション価値評価手法」を参照されたい。またオプション評価のパラメータであるボラティリティおよびクレジットスプレッドについては、「転換社債価値評価手法」を参照されたい。

現金での取得請求権付株式(株式の保有者が発行企業に対してあらかじめ定めた金額で買い戻すことを請求できる権利を有する株式)は、投資に関するリスクを低減させることが可能であるが、請求権が行使されるシナリオを想定するケースが限定的とも考えられる。

現金での取得条項付株式(発行企業が現金であらかじめ定めた金額で買い戻すことができる権利を有する株式)は、債券の性格を有しDCF法により評価されるケースや権利行使可能性から評価に影響を与えないケースも考えられる。

満期償還、繰上償還の条件が付された、現金での取得請求権および取得条項付株式は、社債型種類株式として将来シナリオの割引現在価値で評価する事も考えられる。

合併等のM&Aをみなし清算として取り扱い、残余財産を優先的に受け取る事が出来るみなし清算条項付種類株式は、流動化による価値をオプションモデルで評価する事も考えられる。

みなし清算条項などの優先株式については、米国公認会計士協会(AICPA)が公表しているPractice Aid, ”Valuation of Privately-Held-Company Equity Securities Issued as Compensation”の評価手法によって、株主価値総額を普通株式価値および種類株式価値へ配分する方法が採用される事がある。

② 議決権制限株式

海外の事例では概ね5~10%程度のディスカウントと推測され、また、日本において財産評価基本通達によると無議決権株式は5%程度のディスカウントの事例も紹介している。

しかし、一定の前提における当該ディスカウントをそのまま使用する事には留意が必要であり、議決権の有無を定量化する事は困難であり、株式価値に反映しない事も一般的である。

また、普通株式への転換が可能な場合においては普通株式と同様に評価すべきとの考え方もある。

③ コントロールプレミアムを有する種類株式

議決権割合に応じて以下のようにプレミアムは3区分され、TOBプレミアムを参考に統計的に数十%とされる。

しかし、拒否権付株式(黄金株)の場合、特定の事項についてのみ拒否権を持つため、プレミアムの定量化は困難と考えられる。

拒否権プレミアム:議決権の3分の1超の場合  ⇒株主総会の特別決議を拒否(支配権の裏返し)
経営権プレミアム:議決権の過半数の場合    ⇒株主総会の普通決議
支配権プレミアム:議決権の3分の2以上の場合 ⇒株主総会の特別決議

他に株主提案権(総株主の議決権の100分の1以上の議決権、または300個以上の議決権を6カ月前から引き続き有する株主の権利)のプレミアムも想定されうる。

④ 役員選任権付株式

役員を通じて経営を支配する事に繋がるため、議決権を有する株式と考えられる事から、「③ コントロールプレミアムを有する種類株式」の評価を参照。

⑤ 譲渡制限が付された株式

処分可能性が相対的に低いという点で価値が減少していることから、ディスカウントする事も考えられる。しかし、流動性が全くなくなるわけではなく、非上場企業のM&A実務においてディスカウントが常に行われるわけではない。

⑥ 配当の異なる定めがある株式

配当キャッシュフローに基づいてディスカウントまたはプレミアムを織り込む方法が考えられる。しかし、配当優先または配当劣後株式の多くは、無議決権株式かつ転換請求権付株式または取得条項付株式であり配当キャッシュフローモデルだけでは評価出来ない事が通常である。

税務上の評価

税法上、明確に評価方法は規定されていないが、相続税法上、以下種類株式について、国税庁が「相続等により取得した種類株式の評価について」、「種類株式の評価について(情報)」により評価方法を示している。

配当優先無議決権株式:普通株式の評価額から5%評価減
社債類似株式:社債に準じて評価(既経過利息の額に相当する配当金の加算しない)
拒否権付株式:普通株式と同じで拒否権を考慮せずに評価